広告代理店から愛を込めて

心筋梗塞になった40歳広告代理店の人のブログ

できる男は、機内で毎日新聞を読む。


わかる気がする。
「かっこいい」というより、素敵。な感じがする。

飛行機に乗ったとき、キャビンアテンダントに新聞を勧められたらスポーツ新聞が読みたいところだが、
「できるビジネスパーソン」のフリをして『日本経済新聞』を選んだりすることはないだろうか。男なら、あると思う。

 しかしながら、キャビンアテンダントへの私的な取材結果によると、
機内で日経新聞を読むということは、そのヒトは、その時間まで日経をチェックしていなかったと判断される。
「できるビジネスパーソンには、ありえない!」て、ことになるらしい。

 なので機内で新聞を読むのなら『毎日新聞』はどうだろうか? 一番後回しに読まれるであろう(私的推測)、
毎日新聞をオーダーすると「さすが! このヒトは、もうほとんどの新聞には目を通したのね!」となる。
できる男の飛行機に乗ってる時間の実用的な使い方=いろんな情報に目を通すというこなのだ。


典型的なイメージには「実用の穴」がある

 「飛行機で日本経済新聞」=できるビジネスパーソン像の常識は、実際には使えない。
我々が描く典型的なイメージには、必ず「実用の穴」があるものだ。

 例えば、引越しの際によく見る風景。新居への搬入作業の前に、いったん靴下を履き替えてから作業を行うことは、
ほぼ常識になったようだ。引越しの際の汚れた靴下ではなく、新居に入るときには、まっさらなキレイな靴下で。
ガテン系と呼ばれるこの業界において、気配りされた良いサービスとして広まった。

 しかしよくよく聞いてみると、このまっさら靴下サービス。気分だけのものではないらしい。
新しい畳や無垢材が使われた家具に汗をかいた衣服が触れると、シミとなって残る。
その危険性を回避する実用性があるのだという。ただのパフォーマンスかと思っていたら、裏にはそんな実用性があったのだ。


 もう1つの例として、某女性向けアダルトグッズ販売の受付コールセンター。
儲かっているものだから、裏ではすごいシステムと物流が動いてるのだが、電話の対応は常に“家内制手工業的”
。ほんの数人で受付から発送までやって、慌ただしい雰囲気を演出する。

 女性にとっては、こっそりと注文したいアダルトグッズ。それを、大企業のように整然と注文を受けられるのも恥ずかしい。
どこかのおばちゃんが始めた、といった雰囲気をコールセンターの向こうに感じさせるというのは、そういう女性心理を読んでのことらしい。

 その顧客管理や物流の部分はシステム化するが、対応の部分だけは常にアナログ。
女性にとっては、実用的なコールセンターだ。整然とマニュアル通りにやればいい、というものではない。


日本には「用の美」という考え方が古くからある。使われることを目的とした無駄のないフォルム。
そのまじめな美しさを「用の美」と呼ぶなら、さりげなく飛行機の中で、毎日新聞を読むビジネスパーソン
実に自然に、新居に入る際に靴下を履き替える引越し屋さん。システムとは無縁な対応の女性アダルトグッズ受注センター。
これらもまた、ビジネスの世界の中で垣間見る「用の美」ではないだろうか。


ビジネスで使える「用の美」

 
デコラティブなイメージやパフォーマンスではなく、
必要なモノだけを切り出したときに生まれてくる「引き算サービス」が、本質的に「使える付加価値」になる。

 キャビンアテンダントに、いいところを見せたいという余計な思惑が、実に間抜けな結果を招く。
男らしい無限な妄想=頭での考えは、ろくなものではない
。24時間を実用的に使っているビジネスパーソンは、その24時間という制約があるからこそ、
頭で『日経新聞』を選ぶのではなく、身体で『毎日新聞』を選んでしまう。そこが「かっこいい=用の美」なのだ。

 現場主義とはビジネスの現場には、制約があることを身につけること。
その制約の中から、身体から立ち上がる智恵を見いだすこと。
ビジネスで使える「用の美」とは、そうやって紡ぎ出されていく。(中村修治)
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0904/17/news007.html