広告代理店から愛を込めて

心筋梗塞になった40歳広告代理店の人のブログ

絶対的愛。


ああ、わかるかもしれない。そんなものかもしれない。


〜絶対の愛といい加減な愛、どっちも欲しい。〜


「そのこと」に気づいている女の人には、
強さの片鱗を感じる。


ああ、男が辿りつけない境地が、女子にはあるんだなとも思う。
でも、男も辿りつきたい。

それは山本直樹
セックスの「気持ち良さ」と「淋しさ」を同時に描いてしまうからだと思う。

なんてヒドい人だ、と思う。
ジシュレンの最中にそんなことを考えさせないで欲しい。
頭をからっぽにして、猿のように夢中にさせて欲しい。
それなのに、あの目が邪魔をする。

例えば『明日また電話するよ』(イースト・プレス/表題作所収)。
僕が大好きな短編。
遠距離中のカップルが2カ月振りに再会したもんだからヤリまくって、
朝食の最中にもベロベロし出して、
彼女が東京で住む家を探すのだが、
誰もいない部屋で彼とし始めて、
「同棲しようか」なんて思ったりして、
コート一丁で下着なしなんて状態の彼女に彼が「気持ち悪い?」って聞くと
「……気持ちいい」と答えたりして、
それぞれが「やっぱり一緒に暮らすのはやめよう」と決意して、
「明日また電話するよ」と別れるまでの話。
しかし冒頭で彼女は朝日を見ながらなぜか涙を流している。
そこからドエドなセックス描写が始まるのだが、
彼女のあの淋しそうな目が描かれている以上、妙な予感が残る。

こんなふうにしてカップルは付き合って、セックスをして、
なのに別れて、また別の人と……その繰り返しでしかないんだろうか、
そんな予感。
けど、そうでしか生きられないし、生きていくしかない、という決意。

山本直樹作品の女性たちはきっと「そのこと」に気付いているんだろう。
男の僕からしたらしんどいな、と思う。
絶対の愛といい加減な愛、どっちも欲しい。

そのどっちもをバタバタ足掻いて暴れたい。

ずっと昔、付き合った彼女は、
「1枚でも邪魔して欲しくない」と言ってコンドームを嫌い、
食事の最中でも突然欲情し出す、
まるで山本直樹作品に登場するような人だった。
しかもセックスの時に涙を流す。
僕が「イタイの?」と聞くと「気持ちいいから」と答えてくれるが、
視線はアッチの方を向いている。

その時、僕は「これ、マンガで読んだことある」と思い出したが、
それ以上考えると不安になるので、知らんぷりをした。
案の定、僕らは別れてしまったけど、
今思うと彼女も「そのこと」に気付いている人だったんだと思う。

「そのこと」の先は、
生きて生きて生きまくって知るしかないんだろうな。

(文=松江哲明
http://www.cyzo.com/2009/05/post_2102.html