文化が変わった。
文化が変わることに、拒否感を抱く大人。
変わった文化を、納得させることができない若者。
中身は読んでないけど、これが一番しっくりくる。いまのところ。
- 作者: 山本直人
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/09
- メディア: 新書
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ブログの世界においては、誹謗中傷・罵倒など日常茶飯事といえる。バカにする側もバカにされる側も互いに匿名性が高いためにそのような状況となっているのかもしれない。また、一般大衆など、特定されていない相手はバカにしやすいので、ブログでそういう人たちをこき下ろすということも起きやすいのだろう。
この本は、若者(を中心とした現代人)が他人を見下したり軽視することで、無意識的に自分の価値や能力に対する評価を保持したり、高めようとしているのではないかとの考えから、仮想的有能感について書かれたものである。
仮想的有能感とは著者が提唱する心理的構成概念で、「自己の直接的なポジティブ経験に関係なく、他者の能力を批判的に評価・軽視する傾向に付随して習慣的に生じる有能さの感覚」と定義されている。要するに、他人を見下すことで無意識的に得る自分の有能さの感覚ということである。
1.自分の周りには気のきかない人が多い。
2.他の人の仕事を見ていると、手際が悪いと感じる。
3.話し合いの場で、無意味な発言をする人が多い。
4.知識や教養がないのに偉そうにしている人が多い。
5.他の人に対して、なぜこんな簡単なことがわからないのだろうと感じる。
6.自分の代わりに大切な役目をまかせられるような有能な人は、私の周りに少ない。
7.他の人を見ていて「ダメな人だ」と思うことが多い。
8.私の意見が聞き入れてもらえなかった時、相手の理解力が足りないと感じる。
9.今の日本を動かしている人の多くは、たいした人間ではない。
10.世の中には、努力しなくても偉くなる人が少なくない。
11.世の中には、常識のない人が多すぎる。上記の項目は、著者らが使用している仮想的有能感を測定する尺度の項目である。これに当てはまるかどうか各項目について5段階で答えてもらい、仮想的有能得点を算出する。
2つの高校の2つのクラスで仮想的有能感の測定を実施して、同時に担任および副担任の先生に仮想的有能感の概念について説明し、生徒の仮想的有能感の高さを3段階で評価してもらったところ、先生の評定値と生徒の自己評価による尺度得点はおおむね対応していたということから、この尺度も一定の妥当性はあるといってよいようだ。
著者らの研究により明らかになったのは、仮想的有能感が高い人ほど共感性に乏しく、友人関係が狭くて、友人関係に不満を抱いているということだそうだ。身近な他者である友人が少ないことで、自己と他者とを照応させて見ることができず、安易に他者を見下す態度が身に付いている可能性が指摘されている。
また、著者は自尊感情と仮想的有能感との関係についても調べている。自尊感情とは「自己に対する評価感情で、自分自身を基本的に価値あるものとする感覚」のこと。自尊感情を縦軸に、仮想的有能感を横軸に取り、4種類の有能感のタイプ分けをしている。
自尊感情
高
│
自尊型 │ 全能型
低─────┼─────高 仮想的有能感
萎縮型 │ 仮想型
│
低簡単に云ってしまえば、全能型は自分に自信があって他人を低く見るタイプ、仮想型は自分に自信がなくとも他人を低く見るタイプ、自尊型は自分に自信があっても他人を低く見ないタイプ、萎縮型は自分に自信がなく他人も低く見ないタイプである。
ランダムサンプリングではなく、女性のみのデータということでの限界はあるが、著者が示している年齢群ごとの有能感タイプの割合を見ると、仮想型は中学生でもっとも多く約40%、高校生で約30%、大学生で約20%とだんだん下がり、35-44歳で約15%、そこから少しずつ上昇に転じ55-64 歳で約25%となる。そうすると、著者のいう若者が中学生を指しているのなら別だが、若者に仮想的有能感を持っているものが多いとは必ずしもいえないのではないか。それどころか、もっとも謙虚なタイプといえる自尊型の割合が25-34歳での約45%をピークとして一番多くなっていることも、著者の主張に矛盾しているように思われる。
もっとも、男性について調査したり、ランダムサンプリングをすればまた別の結果が出るかもしれず、その点は次なる研究の結果を待ちたい。また、この本の「はじめに」では負け組で他者軽視が増えているのではないかとのことが書いてあったが、本文ではそれについてはあまり触れられていなかった。負け組と仮想的有能感の関係というのも気になるところである。
著者らの研究の結果の部分はおもしろく読めたが、それ以外は印象で語られている部分(最近の若者は…的なもの)や因果関係が憶測に基づいている(or 不明確な)部分もあり、やや残念だった。
しかし、仮想的有能感という概念とそのタイプ分けを知っていると、人間観察には役立ちそうである(あの人はなぜ他人をすぐバカにしたがるのだろう?とか)。また、安易に自分が他人を見下さない歯止めにもなりそうだ。なるべくなら自尊型で行きたいものである。